山村浩二アニメーション+原画展「可視幻想」

山村浩二アニメーション+原画展「可視幻想」
(9/18まで広島市現代美術館

 8/26、27に行ってきました。
 山村さんはいわずもがな、第75回アカデミー賞短編アニメーション部門にノミネートされたことで脚光を浴びた方です。それ以前からも海外では高い評価を受けていて、日本では90年代半ばからNHKの教育チャンネルで「パクシ」「カロとピヨブブト」(写真左)など代表作も流れています。ので、意外とあの、粘土なのか平面画がなのか素材もよくわからないけれどやわらかい色合いでほんわりとしていて、そのくせ奇想天外なことが嵐のようにおこっては何事もなかったかのように通りいすぎていくというような独特の間合いを持った作風を、一度はごらんになったことがある、という方も多いかと思います。

 また、音楽好きな方へは、中村一義「ジュビリー」(2000年)のPVのアニメ(カラフルな世界に変な生き物がいっぱい出てきて行進するあれです)を作った人、と説明させていただきますよ。

 というわけで、最近ますます注目を集めている山村さんなので、特集上映やら個展も東京で数々行われていたのですが、ことごとく行きそびれていた私には、思いがけない好機会であり、結局広島滞在中に二回行ってしまいました。
 
 まず内容から説明すると:第1展示場は「頭山」に関する展示。入ってすぐ右手に同作品の上映ブース、その向かい側には山村がこれまで受賞した国際アニメーションフェスティバルのトロフィーが並べられている。アヌシー、オタワ、オランダなど、大きい大会が名を連ねる。外国のトロフィーは形にとらわれず、またアニメの大会にふさわしく、デザインに工夫があっておちゃめ。特に良かったのがチェコのアニメフェスの、ガラス製のアヒルの首トロフィーでした。

 そこを抜けると一面「頭山」の作画がはりめぐらされている。男の頭に花見客が押し寄せ暴れるところや、桜や街の繊細な描写が美しいシーンなど選りすりのところばかり。また驚いたのが、その製作のために描き溜められたアイデアメモ、イメージを膨らませるために描いたデッサンのただならない数。当初は男の家の外観や身なりの設定をもっと遠巻き描いていたのが、次第に主人公の等身大の視点に重ねたアップ中心の描写に変更され、事物の縮尺をうやむやにすることで、現実的な生活と不思議な世界との境界がをなじむように工夫され、変更されていったようだ。特に最後「自分の頭に飛び込んで死んだ」という不条理な結末をどう見せるか、重々しい倒錯を伝わりやすくするために、判りやすくも山場としてドラマチックに展開させようと、精密なイメージ画から丁寧に動画へ移行された後が見受けられた。

 第2展示室は、これまでの作品撮影に実際使われたクレイ人形や立体セット、セル画などの展示。立体と平面画を、単純だけどいろんな手法で組み合わせて作っていることがわかる。たとえばまずはクレイ人形で動きだけコマドリで撮影し、顔はいろんな表情を写真で他に撮影しておいて、その切抜きを動作を撮ったフィルムと後であわせる、など。立体だか平面だかわからなくなり、作中でも登場人物同士が互いの異質さにびっくりしているようなあの独特の感覚はこういう作り方から表れているのか、と実感。謎が解けた。

 第2室後半・半分は公開まぢか、或いは現在製作中の新作の紹介。4分弱の短編「Fig」は、B6程度の小さな紙にペン?で手描きで製作された作品で、その作画が全て張り出されていた。観客にアニメーション製作に必要な絵の枚数を目の当たりにしてほしかったのだそうだ。本策は今年冬、新進気鋭のアニメーション作家達によって製作された「東京」をテーマにしたオムニバス上映会中で公開される。音楽は山本精一が担当、シャンソンのようなタンゴのような、憂いのある楽曲が全編にわたり流れている。
 東京タワーの電波で生を受けた夜の怪物が、電線を伝い渡り歩く、というだけの幻想的な短編なんだけど、夜の孤独がひしひしと伝わる不思議な風合いに仕上がっている。ひょんなことからこの世に生れ落ちた、まっくろい夜の怪物は涙を垂らしながらとぼとぼ歩いていると、その涙から、またいろんな生き物が生まれだす、という描写があるのだが、単に不条理な、アニメならではのメタモルフォーゼをアイデア任せに連想し、繰り返すだけではなくて、どの生き物の変化にもそれぞれのストーリーが息づいていていとおしく感じる。それを4分間の短い間にさりげなく詰め込める時空を操る手腕に、ああ、ますます描ける世界を広げていっていらっしゃるのだな、と感じる。

 そのほか、現在公開中「年をとった鰐」、製作中のカフカ原作「田舎医者」の作画や、アニメ製作以外にプライベートで書き溜めているアイディア帳の公開、名画のパロディーやポスター原画など貴重な作品も展示されており…すべて目に焼き付け覚えて帰りたかった…ああ。
 そこまで見て気づいたのだが、山村さんの描かれるのは、魚や爬虫類など動物、果物などを元にしたデザインが多い。命あるものすべてに感心が高いのだろう。いとおしげに丁寧に観察されたそれらはイキイキとしていて、独特の繊細なブレる線で、フルフルと震え、フィルムの中では胎動しているかのようにみえる。これまでの山村さんの作品では、そのような、生の躍動、生への驚きを楽しく表現されたものが多かった気がするが(もちろんそれで十分素敵だったのだけれど)、その描写力はそのままに、これからは更に、「Fig」や「田舎医者」に続く、様々な感情を喚起させられるような作品を作っていっていただきたい。